絵(Artwork)・文(Story) LOOTONE


第一章「誕生」


むかしむかし、富士山麓のある村に、お爺さんとお婆さんがおりました。

お爺さんは、近くの山へ芝刈りに、お婆さんは、川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんが川のそばで洗濯をしていると、川下から大きな桃が

「ドンブラコ、ドンブラコ。」

と、川の流れに逆らいながら、いくつも流れて来ました。

「まあ、桃が川をのぼるとは。なんて元気でみごとな桃でしょう。

全部拾えないから、ひとつだけ拾って帰りましょう。」

お婆さんは、川をのぼる最後の一番小さめの桃を、ひとつ拾いあげて、

洗濯物といっしょに、えっちらおっちら抱えて、おうちへ帰りました。

残りの、桃は

「ドンブラコ、ドンブラコ。」

と、川の流れに逆らって、川をのぼって行きました。


夕方になってお爺さんは、山から芝を背負って、帰って来きました。

「おおっ、これは大きくて見事な桃じゃ。」

「不思議なことに、流れに逆らって川下から大きな桃が、たくさん流れてきたので、

ひとつ拾ってきました。

おじいさん、いっしょにいただきましょう。」

そう言いながら、おばあさんは大きな桃を包丁で切ろうとしました。

その時です。

「おぎゃあ、おぎゃあ。」

桃の中から、赤子の泣き声が、聞こえるではありませんか。

「おやおや、まあ、桃の中に赤子がおる。」

お婆さんは、そっと優しく桃を二つに割りました。

「おぎゃあ、おぎゃあ。」

中から、勇ましい泣き声をあげた男の赤子が出てきました。

「まあ、なんてことでしょう。」

二人はびっくりしました。

「わたしたちが、子供が欲しい子供が欲しいと、言いっていたものだから、

きっと、神さまがこの子を授けて下さったにちがいない。」

お爺さんとお婆さんは、とても喜びました。

そして、赤子の出てきた桃を二人でほおばりました。

甘くてみずみずしい桃を、「うまい!うまい!」と食べるうちに、

不思議なことに、お爺さんとお婆さんは、どんどん若返っていきました。

桃を食べきるころには、ふたりは一緒になったころの若者と娘に戻っていました。

ふたりはたいそう驚き、また喜びました。

そして、桃から生まれた赤子には桃太郎という名をつけました。



第二章「決意」


若返ったお爺さんとお婆さんのもとで、桃太郎は、すくすくたくましく

育っていきました。

桃太郎は、だんだん成長するにつれて、ほかの子供に比べて、とても体が大きくなり、

力もすごく強くなりました。

相撲と剣術では、村中の大人たちでも敵うものは、誰もいないくらいでしたが、

気立ては優しく、お爺さんとお婆さんによく孝行をしました。


桃太郎は十五になりました。

そのころ近くの村に、大きな鬼たちがあらわれるようになりました。

他の村人の話では、九匹の大きな鬼たちが村におりてきて、

村の宝や畑の作物や、ウシや馬などを奪っていくそうです。

「わしらの村もいつ襲われるか心配じゃ。」

村人みんなが鬼が村にくることを、いつくるかいつくるかと恐れていました。

「おとうさん、おかあさん、鬼たちのすむ山へ鬼を成敗に行こうと思います。」

気立てのやさしい桃太郎は、困っている村人を助けるために、鬼退治にいくことを

決めました。

おじいさんとおばあさんは、桃太郎のことが心配で鬼退治に行くことを、

強く反対しましたが、桃太郎の意志はとても強く、行くといって聞きません。

あきらめたおじいさんはじんば織の着物と刀を、おばあさんは笹でつつんだ団子を、

桃太郎にわたしました。

「おとうさん、おかあさん、立派に鬼を退治してきます。ではいってまいります。」

そう言って桃太郎は、おじいさんとおばあさんに見送られながら、

鬼退治にでかけました。



第三章「出会い」


桃太郎が、鬼たちのいる山へ向かって、ずんずん進んでいると、峠の草むらの中から、

「ワン、ワン。」と、桃太郎に声をかけながら、犬が一匹飛び出して来きました。

桃太郎がふり返えると、犬はていねいにおじぎをして、

「桃太郎さん、桃太郎さん、風のうわさで鬼退治に行くと聞きました。

じつは兄弟が鬼たちにつかまって、食べられてしまいました。

兄弟のかたき討ちをしたいのです。ぜひお供をさせてください。」

と、言いました。

「よし、それならば一緒に退治しよう。仲間のしるしにこの団子をひとつあげよう。」

犬は、団子を一つもらって、桃太郎のあとについて行きました。


桃太郎と犬が、鬼たちのいる山へ向かって、ずんずん進んでいると、沢近くの空から、

「ケン、ケン。」と、桃太郎たちに鳴きながら、キジが一羽降りて来きました。

桃太郎たちがふり返えると、キジはていねいにおじぎをして、

「桃太郎さん、桃太郎さん、風のうわさで鬼退治に行くと聞きました。

じつはかわいいひよこたちが鬼たちにみつかって、食べられてしまいました。

ひよこたちのかたき討ちをしたいのです。ぜひお供をさせてください。」

と、言いました。

「よし、それならば一緒に退治しよう。仲間のしるしにこの団子をひとつあげよう。」

キジは、団子を一つもらって、桃太郎と犬のあとについて行きました。


桃太郎と犬とキジが、鬼たちのいる山へ向かって、

ずんずん進んでいると、橋のたもとから、

「キャッ、キャッ。」と桃太郎たちに叫びながら、猿が一匹とび出して来きました。

桃太郎たちがふり返えると、猿はていねいにおじぎをして、

「桃太郎さん、桃太郎さん、風のうわさで鬼退治に行くと聞きました。

じつはおとうさんとおかあさんが、鬼たちにつかまって、食べられてしまいました。

親のかたき討ちをしたいのです。ぜひお供をさせてください。」

と、言いました。

「よし、それならば一緒に退治しよう。仲間のしるしにこの団子をひとつあげよう。」

猿は、団子を一つもらって、桃太郎と犬とキジのあとについて行きました。


こうして犬、キジ、猿をしたがえた桃太郎は鬼たちのいる山に、勇んで

進んでいきました。



第四章「死闘」


鬼たちのすむ山は森が深くうっそうとしていました。

それでも桃太郎たちは、鬼のすみかに向かってどんどん進みました。

ようやく桃太郎たちは、鬼のすみかのほら穴の入り口に着きました。

「われは桃太郎。村に悪さをするお前たちを成敗にきた。」

そう言って、桃太郎たちがみがまえていると、九匹の大きな鬼たちが

ぞろぞろと出てきました。

「人間のこぞう、こんなところまでひとりでよく来たな。返り討ちにしてやる。」

そう言って鬼たちは、桃太郎たちにとびかかっていきました。

桃太郎と、犬とキジと猿と、鬼たちのたたかいは壮絶でした。

犬はするすると大きな鬼たちの、足元をすりぬけながら、むこうずねにかみつき、

歩けなくしていきました。

キジはつぎつぎと鬼たちの目をつつきまわし、目を見えなくしていきました。

猿は大きな鬼たちの頭から頭へとびうつりながら、鬼たちの髪を、

ぶちりぶちりむしりとりました。

さすがの鬼たちも、犬、キジ、猿の攻撃に、顔を血だらけにしてよたよたするばかり。

よたよたうろつく鬼たちを、桃太郎が一匹また一匹と、刀でとどめをさしていきました。

最後の九匹目の鬼にとどめをさしたころには、あたりは真っ暗でした。

「鬼を成敗したぞ。」

刀を天につきあげ、犬、キジ、猿とともに、勝利をよろこびました。

夜空には大きなお月さまが、桃太郎の勝利を祝うかのように輝いていました。



第五章「絵巻」


「さあ、奪われたお宝を積んで帰ろう。」

桃太郎たちは、鬼たちがほかの村から奪ったたくさんのお宝を、

荷ぐるまに積み始めました。

桃太郎が、お宝を荷ぐるまに積んでいると、お宝の中から、

絵巻がひとつ、ころりと落ちてきました。

それは鬼のかいた絵巻でした。

桃太郎は、お宝を荷ぐるまに積む手を休めて、お月さまの明かりで、その絵巻を

読みはじめました。

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むかしむかし、この山には、男と女の大きな鬼がひっそりと住んでいました。

鬼たちは夫婦でした。

でも子供がいませんでした。

鬼の夫婦は神様に願いました。

「どうか神様。わたしたちに、子供を授けてください。」

来る日も来る日も鬼の夫婦は、大きなお月さまに向かって願いました。

月日がたったある夜のこと、鬼の夫婦は同じ夢をみました。

不思議な夢です。

大きな桃が十個、川の流れに逆らって、

「ドンブラコ、ドンブラコ。」

と、のぼってきます。

その桃をぜんぶ拾って割ってみると、なかから、元気なあかごが

「おぎゃあ、おぎゃあ。」

と、でてきました。

びっくりして目をさました鬼の夫婦は、顔をみあわせました。

「神様が願いをかなえてくれる。桃が子供を運んでくるぞ。それも十人じゃ。」

朝になり、鬼の夫婦はいそいで川におりていきました。

川岸にたって、しばらく、川下を、ながめていると、大きな桃が

「ドンブラコ、ドンブラコ。」

と、川の流れに逆らってのぼってきました。

「夢のお告げは本当じゃ。十個の桃じゃ。十人の子供じゃ。」

鬼の夫婦はたいそう喜んで、川のなかに入り、ぜんぶの桃をひろいあげました。

二人でそっと優しく桃を割ると、なかから元気なあかごが

「おぎゃあ、おぎゃあ。」

と、でてきました。

「神様が願いをかなえてくれた。ありがとうございます。ありがとうございます。」

鬼の夫婦は、桃から取りあげたあかごたちに、桃のかけらを、

お乳の代わりに食べさせました。

するとどうでしょう、あかごたちの体が、ひとまわりも、ふたまわりも、

大きくなりました。

大変おどろき、喜んだ鬼の夫婦は喜び、おどりました。

それをみたあかごたちも、うれしくなって笑いました。

あかごたちをうちにつれてかえり、優しく寝かしつけて数をかぞえました。

「ひとり、ふたり、さんにん、よにん、ごにん、ろくにん、しちにん、

はちにん、きゅうにん。」

なんど数えても十人いません。

あわてた鬼の夫婦は、いそいで川にもどりました。

どこをさがしても残り一個の桃は、みつかりません。

残り一個の桃をみつけることができなかった鬼の夫婦は、途方にくれました。

そして神様が与えてくれた大切な桃を、ひとつひろえなかったことを、

とても後悔しました。

それから鬼の夫婦は、子供たちをたくましく育てながら、ひまをみつけては、

十人目の子供をさがしました。


月日がたち、鬼の夫婦は年老いて亡くなりました。

桃から生まれた子供たちは、大きくてたくましくりっぱな鬼になっていました。

「おとうさん、おかあさんが、一生懸命さがしてもみつからなかった

十人目の兄弟を、自分たちでみつけよう。」

それから鬼たちは、おとうさん、おかあさんが、けっして近寄らなかった、

人間の村をさがすことにしました。

はじめは、自分たちの生き別れになった兄弟のひとりが、この村に住んでないか、

村人にていねいにたずねていたのですが、

「鬼がきたぞ。こわい鬼がきた。」

と言って、話もきかず、みんな逃げてばかりでした。

兄弟を探しにきた鬼たちに、村人たちは

「こわい、こわい。くるな。」

と、言って、石をなげ、カマやクワを手に、力いっぱい叩いてきました。

話をきかない人間たちのようすに、がまんができなくなった鬼たちは、人間に

憎しみと怒りをつのらせ、いつしか暴れまわりながら、十人目の兄弟を

探すようになりました。

「人間はいやだ、人間はいやだ。十人目の兄弟に、あいたい、あいたい、あいたい。」

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そうかかれて絵巻は、途中で終わっていました。



第六章「涙」


大きなお月さまの下で、桃太郎はすべてを知りました。

十人目の兄弟が、自分だということ。

悪さをするためではなく、自分をさがしに村にきていたこと。

人間たちからひどい仕打ちをうけて、憎しみと怒りから悪さをしていたこと。

そして、大切な兄弟を自分の手で殺してしまったことを。

「ごおー、ごおー、ごおー。」

とつぜんの大きな風のおとで、犬と、キジと、猿は、

びっくりして顔をあげました。

大きな風のおとは、桃太郎の泣き声でした。

「桃太郎さん、桃太郎さん、鬼を退治してお宝をとりもどしたのに、

なぜ悲しくて泣いているのですか?」

桃太郎は、泣き叫びながら言いました。

「この鬼たちは、私の兄弟なのだ。わたしは、大切な兄弟を殺した。

とりかえしのつかないことをしてしまった。ごおー、ごおー。」

犬と、キジと、猿も、鬼のかいた絵巻を読みました。

「もうわたしは、村へは帰れない。人間といっしょには暮らせない。

兄弟の魂をとむらいざんげのために、ここに残る。

お前たちだけで宝を村まで運んでおくれ。」

そう言うと、桃太郎はのこりの笹に包まれた団子を、犬、キジ、猿に手渡して、

鬼たちのなきがらを埋めるために、穴を掘り始めました。

犬と、キジと、猿は、ひっしに桃太郎に村にかえるようさとしましたが、

桃太郎の意志はとてもかたく、泣きながらもくもくと穴を掘りつづけていました。



第七章「後悔」


犬とキジと猿は、桃太郎を山に残して、宝の山が積まれた荷ぐるまを、

一生懸命押しながら、山をおりていきました。

いくにちも、いくにちもかかって、犬とキジと猿は、桃太郎が生まれた村へ帰ってきました。

若返ったおじいさんとおばあさん、村人みんなが大喜びで、

犬とキジと猿を、出迎えました。

「よくやった、よくやった。」

「桃太郎は、どこにおる。けがはしとらんか。」

犬とキジと猿はなみだながらに、桃太郎が鬼の山にのこったいきさつを話しました。

「わたしがあのとき、桃を拾わなければ。」

おばあさんは泣きくずれました。



第八章「鎮魂」


その後鬼退治の手伝いをした、犬とキジと猿は、

若返ったおじいさんとおばあさんのところで暮らしました。

いつからか毎年、お月さまが大きくなる晩に、

「ごおー、ごおー、ごおー。」

と、大きな風がふき、川の水があふれ、氾濫するようになりました。

川が氾濫するたびに、村の田んぼがダメになり、うちが流されました。

犬とキジと猿は言いました。

「あの風は、桃太郎さんの、泣き声だ。

たくさんの涙が、川に流れ、川があふれている。」

それをきいた村人たちは、心をいためました。

おじいさんとおばあさんは、川があふれるたびに、

「すまない、すまない。」

と、泣きながら鬼のいた山に、手を合わせつづけました。


やがて猿が、キジが、犬が、大きな風がふく晩に次々と眠るように、

息をひき取りました。

おじいさんとおばあさんは、猿、キジ、犬を、桃太郎の涙をしずめるために、

桃太郎と出会ったところに、埋めることにしました。

猿を川にかかる橋のたもとに、キジを沢に、犬を峠に埋めました。


そのご、川の氾濫と大きな風は、少しずつ小さくなっていきました。

そしてまた、なにごともなかったように時がすぎていきました。

大きなお月さまだけは、むかしも今も、ずっと輝きつづけています。



おしまい。




LOOTONE Artwork 2017 "Legend of Momotaro"